「戦隊ピンクはリーダーになれない」  戦隊養成所を描いた意欲作『桃の園』が賛否両論を呼ぶワケ

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2024年8月6日にマンガアプリ「comipo」と電子コミックWebサービスの「DLsite comipo」で連載開始された『桃の園』(著:ころころ大五郎)が物議を呼んでいます。同作は戦隊ヒーローが存在している世界で、自分を助けてくれたレッドに憧れて、養成所でレッドのようなヒーローを目指す少女「花岡さくら」の物語です。

目次

●戦隊ファンから大ブーイングが起こる設定

 作中では「女性はピンクにしかなれない」「ピンクはレッドより前に出てはいけない」といったルールが示されています。おそらくは、そうしたしがらみのあるルールに抗い、最終的には覆していく反骨心を描いた作品なのでしょう。その点では戦隊に対する怪人を主人公に据え、マンネリ化した茶番劇をぶち壊していく『戦隊大失格』(著:春場ネギ/講談社)に少し似ているかもしれません。

今回の『桃の園』の逆張り要素についても個人的には面白い、少なくても今後に期待が出来るポイントだと思います。少なくてもチーム内での不倫など、インモラルな世界を描いた『戦隊タブー』(原作:TK2/作画:エド・バルスト/講談社)よりは好感の持てる設定でした。しかし、作品は物議を呼び、見るからに賛否両論の否が多い状態です。どうして、そんなことになってしまったのでしょうか。問題は「戦隊」という設定そのものにあります。

単純に作品の根幹である「戦隊」について、カラフルな全身スーツを見にまとって悪と戦う正義のヒーローとして見るのであれば、それほど大きな問題になるとは思えません。ところが、その根元にある石ノ森章太郎先生の『秘密戦隊ゴレンジャー』や、同作を原作とした「スーパー戦隊シリーズ」(東映)まで遡ってしまうと、違和感しかない設定に変質してしまいます。

●戦隊シリーズから見る『桃の園』の矛盾点

「女性はピンクにしかなれない」というルールを例に出せば、スーパー戦隊シリーズではイエローやグリーンを基調とした女性のヒーローも存在するうえ、複数人の女性が並び立つこともあり紅一点とも限りません。中には『忍者戦隊カクレンジャー(1994年)』「鶴姫/ニンジャホワイト(演:広瀬仁美)」『未来戦隊タイムレンジャー(2000年)』「ユウリ/タイムピンク(演:勝村美香)」のようにリーダー格としてチームを引っ張っていった女性メンバーもいます。

 上に挙げたようなチームのリーダーではない女性キャラクターでも、スーパー戦隊シリーズは1年間を通して放送されるため、物語の主役に女性メンバーが据えられた話もあり、怪人にトドメを刺した例も少なくありません。また「ピンク」といえば、異質すぎるのが『桃太郎戦隊ドンブラザーズ(2022年)』に登場した「雉野つよし/キジブラザー(演:鈴木浩文)」でしょうか。スーパー戦隊シリーズでは初の男性ピンクであり、ややメンヘラとも言える情愛の深さによって怪人に変質してしまったことも一度ではない変わりものです。

https://twitter.com/sukkun/status/1594134785156612096
失踪した奥さんの代用として人形に微笑む戦隊ピンク「良い意味で頭がおかしい」としか…

 正直にいえば雉野は特殊すぎる例ですが、最新作『爆上戦隊ブンブンジャー(2024年)』や前作『王様戦隊キングオージャー(2023年)』において男女に格差はなく、相手が女性メンバーだからといって見下すことはありません。SDGsに掲げられるような昨今のジェンダーバイアスの厳しさを考えると、少なくても同シリーズにおいては今後の作品でも見られない設定となっていくことでしょう。

 このように作風上もあって、「スーパー戦隊シリーズ」の延長線上で見てしまうと違和感のある設定が随所に見て取れます。あくまでも「戦隊」というデザインをモチーフとしているだけ「別物」ですが、「スーパー戦隊シリーズ」のファンからは「分かっていない」とみられて批判されているわけです。

●作者の言葉が火に油を注ぐ

 やや炎上にも見て取れる騒動について、Xで作者のころころ大五郎さんが弁明をした内容も、悪い意味で火に油を注いだ結果にしかなりませんでした。一部引用すると「『桃の園』想像以上の反響ありがとうございます…!! 全員女子の戦隊ものも知っている私がこの時代にこの作品を描いている理由、早くお伝えしたくてドキドキしております」だそうです。批判が多めの意見を「想像以上の大反響」と言ってしまうのは良くあることなので問題ないとして、ところで「全員女性の戦隊もの」とは、一体どの作品を指しているのでしょうか?

戦隊の名を称したパロディ作品や番外編には女性のみが戦隊ヒーローに変身する作品もありますが、少なくとも本家のスーパー戦隊シリーズではありません。それもそのはずスーパー戦隊シリーズは前述の通りに同じ作品が1年間放送されるため、やったら最後のリカバリーが効かなくなる暴挙には出られません。もし実現したら、本来のターゲットである男児から総スカンを食らうのは間違いないのもあって、男性メンバーのいない作品は存在しないのが当たり前です。

 戦隊シリーズの代わりとして、女児を相手にヒーローものの需要を満たした作品が、実写版『セーラームーン』や、テレビ東京制作の「ガールズ×戦士シリーズ」、アニメーションですが「プリキュアシリーズ」あたりだと言えます。

●オマージュ作品の危うさ

 そもそも作品が注目されなければ人気が出ることもないため、一定のジャンルが流行ればジャンルに対する「逆張り作品」が生まれます。今回、『桃の園』が問題になったのは、端的に言って逆張り作品の危うさが現れてしまった事態なのでしょう。オマージュ元について愛情や知識を感じられなかった。少なくとも、そうした作風にファンからは見て取れてしまったことが、最大の問題でした。

 異世界ものでは既存の作品をイメージしたかのような悪役キャラクターが登場し、あからさまな類似点から1話で早々と打ち切りになってしまった作品もあります。こちらも「こうしたら面白いだろう」という逆張りが先に立って、オマージュ元の作品に対するリスペクトを忘れてしまった例だと言えます。だって、リスペクトがあったら、元ネタのキャラクターたちを下劣な品性しか持たない悪役にする必要はありませんから……。

 元ネタにリスペクトを感じないような作品を同人ならまだしも、商業ベースでやってしまったらファンから白い目で見られないほうがおかしいです。『桃の園』も大勢の芸人がYouTube番組『設定さん。』で、ワンアイディアを発展させていった経緯を考えると、しかたないところもありつつ、原点の「戦隊シリーズ」を考えると「これは違うんじゃないか」とファンに感じさせたのが火元だと言えます。

実際に番組を見てみた結果、個人的には選考担当者の発言が、一番元ネタを馬鹿にしているようでダメでした。

●『桃の園』の今後に期待

 『戦隊大失格』も最初の逆張りが強かった時期こそ批判的に見ていたものの、対立する戦隊陣営や怪人陣営が思惑を巡らせるあいだで主人公が板挟みになる構図が出来てから、個人的には面白くなったと感じています。

 話を戻して『桃の園』のもともとのアイディアには目からうろこが落ちましたし、その発想はなかったと驚かされました。個人的には「強さとかわいさを学ぶ戦隊ピンクの学校」を舞台にするなら、戦隊ではなく学園に軸足をおいてライバルのイジメと戦ったり、好意を寄せるクラスメイトとイチャイチャする作品で良かった気もしますが……。

 おそらくは 「スーパー戦隊を源流とする作品」としてみるか、「戦隊という設定は使っているけど別物」としてみるかで意見が分かれているところかと思います。『桃の園』については設定を作品の世界ではそうだと割り切って、独自色が強くなっていけば熱血要素なども増え、十分に面白い作品になる気がしました。今は「あり得ない設定」に批判をしている人でも、長い目で成長を見ていってはいかがでしょうか。

 

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