漫画やアニメの実写化には、期待と同時に不安がつきものです。好きな作品が実写化されたと聞いて喜んだのはいいものの、いざ見てみると「これ、別物じゃない?」と思う例もなかにはあります。今回はその例として、実写版『その着せ替え人形は恋をする』について触れていきましょう。
『その着せ替え人形は恋をする』ってどんな作品?
今回取り上げる『その着せ替え人形は恋をする』は、ひな人形作りを趣味にしている男子高校生「五条新菜」が、自身とは違う世界の住人だと思っていたクラスメイトの女子生徒「喜多川海夢」からコスプレ衣装の制作を頼まれたことから始まるラブコメ作品です。
頼まれたキッカケは新菜が過去のトラウマからクラスでは隠していた人形の衣装作りについて、裁縫ができなかった海夢に知られてしまったことでした。他人の好きを尊重する海夢によって、次第に新菜はトラウマを克服していきます。またコスプレ衣装作りに協力していくうちに、ふたりは仲を深めていくのでした。
原作は2018年からヤングガンガンに連載中の作品で、2022年に放送されたアニメ版も人気となり、詳細は不明ながら続編の制作も決定しています。
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ドラマ版の出来に原作ファンが不満を抱く
見た目の違いに抱く不満
特に原作のファンから「違う」という声が多数あり、物議を呼んでいたのが登場人物の見た目です。同作のヒロインである喜多川海夢役には永瀬莉子さんが選ばれました。しかし、原作ファンの中には、アニメ版のエンディングを歌い、コスプレイヤーでもあるあかせあかりさんがミュージックビデオで見せた雰囲気のほうが相応しいと考え、彼女を海夢役に起用して欲しかったという声も少なくありませんでした。
より原作に忠実な実写版を製作してほしいと考えるのであれば、キャスティングされた役者が原作の雰囲気と全然違ったときに不満を抱いてしまうのも分かります。しかし、個人的には実写化をする際に必ずしも見た目まで原作に寄せて作る必要性はないと考えます。特にこの作品の場合、重要なのは物語冒頭で新菜が海夢を「遠い存在」に感じるほど魅力的な女子高生という点であり、原作のような金髪ではなく黒髪だったとしても物語に大きな影響は与えません。
実際に原作と見た目がそっくりな役者を選んだとしても、それだけで作品全体の評価が決定されるわけではありません。どちらかといえば見た目が似ているかどうかよりも、原作の雰囲気がしっかり伝わるかが重要です。ドラマ版『着せ恋』でも演出や役者の演技は精一杯に原作を伝えようとしており、一定の評価ができると感じます。
問題はキャスティングだけじゃない
今回のドラマ版で一番問題を感じたのは、役者ではなく制作側の方針です。実写化された『その着せ替え人形は恋をする』では、ラブコメ要素が強調される一方で、コスプレ要素が弱くなっているように感じました。原作のテーマである「コスプレに対する情熱」が少し希薄になってしまっている印象を受けます。
たとえば、原作で新菜がコスプレ衣装を作るために採寸する場面で、海夢が着ている衣装が大きく違い物議となっていました。正確に採寸するためには出来るだけ何も着ていないのに近い状態なのが好ましく、原作では下着に代わってビキニの水着を着用していました。
しかし、ドラマ版ではコンプライアンスの影響かおヘソの出たハイウエストタイプの水着に変更されています。実写で露出度が控えめになってしまうのはしかたないのかもしれませんが、採寸に影響が出てしまうのは確実で違和感を覚えるファンが声をあげていました。
構成に対する違和感
また、採寸に至る経緯も原作と異なっています。原作では前日の金曜日に、新菜が採寸についての話を海夢から受けており、月曜日の約束を待ちきれなかったため新菜の実家である五条人形店を訪れる形でした。ドラマ版では採寸についての話は一切ないため、原作と同じく「さっそく、しよっか」と求められても何のことだか分かりません。
ドラマ版では前日にコスプレ衣装を作るための資料を貸す約束をしており、渡さなくてはいけないものを届けに来た結果として部屋へと上がり込み、会話を挟む流れの中で採寸へと持っていくのが自然だったように思えます。やはりコンプライアンスの影響か、実際に採寸する場面が描かれることはほとんどなく、その場での会話が大きく改変されていたのも原作ファンには不満だったかもしれません。
水着の問題があって内容がほとんどカットなら、そもそも無理に採寸しようとする必要性あった?
ドラマ版が伝えたいこと
ドラマ版では原作以上に新菜の抱えるトラウマである過去の出来事を強調し、採寸の場で彼が人形について腕を磨いている理由を聞かれ「しかたないから」と誤魔化してしまう改変されています。また人形作りについても、バレてしまった海夢以外のクラスメイトにはひた隠しにしようとするなど、自分の好きを表立って他人に伝えられない不器用さが見えています。
そうした改変から自分の好きを大切にする海夢との交流を通して、過去を乗り越えようとする新菜を描きたいのだと察することが出来ます。ドラマの制作陣が描きたいのは、ラブコメであると同時に新菜の成長物語なのでしょう。原作から切り離して考えればドラマの伝えたいことは充分に理解でき、思ったよりも悪い作品ではないと思えます。
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総評:原作付き作品を実写化する難しさ
オリジナルよりも原作作品の知名度やファンを実写版の視聴者にも引き込んだほうが楽だからなのか、大きな問題が発生してもマンガ作品からの実写化がなくなることはありません。しかし、原作のファンが作品に求めていることと制作したい内容のすり合わせを怠ってしまうとオリジナル作品以上に批判が集中してしまうのも、また実写化作品の難しさであることも確かです。
ただ批判される内容のうち役者については、演技がダメだったら批判されるのはやむを得ないとしても、見た目のことは言うべきではないんじゃないかとも思います。
原作ファンからの批判だけでなく放送時間が大衆向けではないのもあり、逆境を感じてしまう作品ですが、悪い反響をはねのけて終わってみたら良い作品だったと思えるような出来になってくれることを期待しています。
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